皆様、おはようございます。
先週8月27日(水)、「油液型液浸サーバーの性能試験を(東北大学と)共同で実施」というリリースを発表し、翌朝には私からもメッセージをお届けいたしました。
ただ、「油液型液浸サーバー」や今回の検証内容は専門性が高く、私自身も専門家ではないため、その意義や凄さを十分にお伝えできていないのではないかと感じております。そこで今回は、私が周囲からレクチャーを受けた内容をもとに、できるだけ身近に感じていただけるよう、凄さのポイントをまとめてみたいと思います。
1点目:『AI活用で使用する電気量を大幅に抑えることが出来る』
他社での実証検証を除き、実稼働のデータセンターのPUE値は、2020年度以降に新設されたものでも平均で約1.28(令和7年度 経済産業省 総合資源エネルギー調査会のワーキンググループでの内容)と言われています。
PUE値というのは、簡単にいうと、コンピューターが計算に使用する電力量を1として、コンピューターと冷却やその他の補助的な機器類にかかる電力量の総和が何倍になるかという値です。冷蔵庫で例えると、食品を冷やす電力に加えて、庫内を照らす電球や周囲に熱を逃がすための電力も含めて必要となる電力量ということです。
先ほどの、平均1.28の場合は、コンピューターの計算に必要な電力に対して、28%の無駄(計算としては不要)な電力が必要ということです。
2022年度の日本国内におけるデータセンターの年間電力消費量は、8,000GWh前後と推計されています。これが、2030年度には17,000GWh、2050年度には41,200GWhに増加する見込みと言われています。(出典: 株式会社富士キメラ総研「国内データセンター市場におけるAI需要/地方分散/再エネ電源」)
なんと、コンピューターの計算以外で、2022年度で2,240GWh、2050年度には11,536GWhも必要とされるというのです。11,536GWhというのは、大阪府全体の一般家庭が使用する年間使用量に匹敵する電力量です。
当社の子会社である北浜GRF株式会社(大阪府大阪市中央区、代表取締役 平岡 佳明、以下「KGC」)は、このPUE値を、1.05とすることを目指して新サーバーを設計し、これから検証を行おうとしています。
1.28から1.05になると、2050年度の予測で、これまで無駄に消費されていた電力量が11,536GWhから2,060GWhに削減できます。これは、大阪府全体の世帯が使う年間電力量が必要だったものが、東大阪市・豊中市・吹田市の世帯に相当する規模まで縮小できるということです。
コンピューターシステムやGPUの稼働において、このPUE値を低減させることは、日本の将来の為に極めて重要で意義のある取り組みであることがご理解いただけるかと思います。
2点目:『今のGPUサーバーは工事現場なみの騒音、これを図書館なみの快適空間に』
皆さんが使用されている各種のAIクラウドサービス、その提供には各IT企業が皆さんの見えないところで、GPUサーバーを稼働させて提供しています。
GPUサーバーは非常に発熱します。例えばNVIDIA H200では、小型ヒーターに匹敵するほどの熱を出すことがあり、冷却しなければ容易に80℃を超えてしまいます。そのため従来は高速ファンで冷却していましたが、その騒音は85~90dB(地下鉄車内や工事現場に匹敵)に達することもあります。実際にデータセンターのメンテナンス作業に入った人からは『隣の人の声が聞こえないほど』と聞きます。
これに対し油液型液浸サーバーでは、ファンが不要となり、図書館並みの静けさを実現できるのです。これであれば、将来的に町内に設置したり、大規模マンションに専用マシンを設置するなども可能になってきます。
3点目:『今回使用する専用の油はすごい』
今回の検証では、出光興産様が開発したサーバー冷却油を使用します。詳しくは、出光興産様が公表されている資料などをご覧いただくとして、私なりの理解で、この油の凄さをお伝えしたいと思います。
まず、オイル(油)であるのに、「消防法上の危険物に該当しない」ということです。先日のPRでは、「引火点254℃(指定可燃物に該当)」という表現でしたが、皆さんの中には、「指定可燃物」という語感から、危険物なんじゃないかという誤解をされた方もいらっしゃるかもしれません。正しくは、可燃物ではあるが、危険物ではないというものになります。
消防法上では、引火点が250℃未満の液体は危険物(第4類:引火性液体)とされ、その使用や保管に厳格な規制があります。危険物となると、データセンターで大量に使用するには、設備や保管など多大なコストが掛かると同時に、安全性の面でリスクを抱えることになります。
つまり、この出光興産様が開発したオイルは、危険物に該当しないため、データセンターで大規模に安全に使用することが出来るということです。
そして、もう一点重要なポイントがあります。液浸式に使用する液体は、過去にも様々なものが開発され検証されてきました。3M社などが開発したフッ素系液体(フロン系の代替物質)などもあります。ただ、フッ素系液体は揮発性が高く(30~70℃程度)、GPUの表面温度は80℃を超えることも常なので、液体が蒸発してしまい、補充が必要となります。また、補充に際しては、人体への影響も考慮して防護設備などが必要でした。これでは多大なコストが掛かってしまい、データセンターの実運用には向きません。
その点、一般的な観点からすると、この出光興産様が開発した油はフッ素系液体に比べて揮発性が極めて低いものであることが期待されます。液量の減少が少ないことは、補充の必要がなく長期運用に適しています。
私としては、この出光興産様の油液は、従来液体の課題(揮発・コスト・安全性)を克服したものであり、世界的に見ても大きな革新的なものであると思います。
これから始まる検証は、サーバーが稼働するという単純な検証ではなく、これらの凄いところを、専門家の手で実際にGPUに高負荷をかけて計測し、評価することになります。
私は専門家ではありませんが、周囲から話を聞いている中で、今回の取組みについて、少しでも皆様に分かりやすく伝えたいという思いに駆られ、長文になってしまいました。
これから、検証作業がさらに進んでまいります。引き続き、何卒よろしくお願い申し上げます。
2025年9月1日
北浜キャピタルパートナーズ株式会社
代表取締役会長兼CEO 前 田 健 晴